作用がはげしく、危険な薬品のことを「劇薬」と言います。
なぜ「劇薬」にお芝居の「劇」を書くのでしょうか?
「劇」には「はげしい」という意味もある
劇といえばお芝居、演劇のイメージがありますね。ですが、別の意味もあります。
今はあまり知られていませんが、「劇」には「はげしい。つよい。めまぐるしい」という意味もあります。
劇薬という言葉は、そのまま「はげしい薬品」という意味で使われている言葉です。
この「劇」という漢字、虎の頭を持つ獣と、刀が合わさってできたものです。軍戯として虎頭に扮したものを討つ(刀)ことを表しています。その動作がはげしいため「劇」に「はげしい」という意味があります。
はげしいという意味の「劇」はもう使われない?
劇には「はげしい」という意味もあると説明しましたが、現在はあまり使われていません。
現在使われるのは以下のような場合のみです:
- 劇薬
- 劇物
- 劇毒
- 劇症型
ちなみに「劇的」というのは「劇のように緊張感や感動を与えるさま」ですので、「激的」とはなりません。
反対に、「激」を使う例はより馴染み深いものです:
- 急激
- 激務
- 激痛
- 激論
60年前の日本では?
今から60年前の昭和35年ごろ、文化庁でも「激」と「劇」についてまとめられていました。
当時の報告会のまとめによると、現在の感覚よりも「劇」を使う機会が多かったと分かります。まとめから引用します:
- (当時の)「劇」と「激」両方を使うもの
- 激臭(劇臭)
- 激震(劇震)
- 激痛(劇痛)
- 激変(劇変)
- 激烈(劇烈)
- 激論(劇論)
- 急激(急劇)
- (当時の)「劇」を使うもの
- 劇職
- 劇務
- 劇薬
- 劇毒
今となっては「劇薬」や「劇毒」以外は「激」を使うほうが自然です。
そして報告にはこのようにも書かれています。
今日,「劇」に「はげしい」という意味があることは一般に知らなくなっているから,
「劇職」「劇務」なども「激」を使うようになっていくであろうが,
「劇薬」は今日のところ「劇」を使うのはやむをえないであろう。
まったくその通り、「劇」を「はげしい」という意味で使うことは今日ほとんどありません。
当時はそれでも「劇務」などを使う機会もあったようですね。
今では新聞記者向けの記者ハンドブックなどを見ても、薬品や薬物関係以外のほとんどの場合で「激」を使うように書かれています。
まとめ
まとめると以下のようになります:
- 「劇薬」の劇は「はげしい」という意味で間違いない
- 今は「激」が多く使われるが、薬品・薬物などの分野で「劇」も残っている
- 昔は「劇」も使われていた
こういった言葉を調べると、日本語の文化や漢字の背景が見えてきて面白いですね。
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参考・引用元文献
- 新潮日本語漢字辞典
- 文化庁 | 語形の「ゆれ」の問題 漢字表記の「ゆれ」について(報告)3: https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kakuki/05/bukai02/06.html
- goo漢字辞典: https://dictionary.goo.ne.jp/word/kanji/%E5%8A%87/
- 読売新聞用字用語の手引(第6版)
- 記者ハンドブック(第13版)
執筆:Kiyohara Hiroki (@hirokiky)
(Shodoで執筆されました)